BCネットワークは,アメリカ認定の非営利団体です。 日米両国に在住の日本人女性達に乳がんに関する最新の情報 、乳がん治療後の生活の取り組み、乳がん早期発見、 啓発情報発信を押し進めていく非営利団体です。 Knowledge is power.  正しい知識は患者自身の力、支えになると信じて活動しています 。


.日米の乳がん医療の違いについて

2011年2月

 
山内英子先生インタビュー (聖路加国際病院ブレストセンター乳腺外科部長)
 
山内先生は15年間アメリカで乳がんの研究また外科医として診療にあたられ、2年前に帰国。
その後聖路加国際病院ブレストセンター長に就任されました。
アメリカそして日本での乳がん治療をその経験を基にインタビューさせてください。

山内英子先生

 
日本、アメリカ女性の間に“乳がん”への認識の違いはありますか?           
またそれはどのような点でしょうか。

認識の違いは多くみられます。日本人女性はアメリカ人女性に比べるとより乳がんに対し、一般的な恐怖感をもっています。
それゆえに自分ひとりで乳がんに苦しんでいるというふうに考えてしまう事が多いようです。

 
乳がん検診について(乳がんになる前):                       
アメリカ人女性と日本人女性の定期健診への姿勢の違いはありますか。

 
両国の医療システムの違いが大きく影響しています。アメリカの場合はプライマリーケアードクター(一般的な内科の近所の医師である場合が多い)からのマンモグラフィーなどの検診の指示があり、システム的に乳がんが発見される事が多いのに比べ、日本は乳がん発見の為の確立したシステムがありません。

 
乳がん検査について検査方法の違いはありますか?

アメリカでは乳がん罹患率のピークが50歳代のため、40歳以上の女性にマンモグラフィーを一年に一回することが普通になっています。またマンモグラフィー検診によって乳がんが発見される率も高いため超音波検査を使った検診より、マンモグラフィー検診のほうが重要視されています。しかし日本では乳がん罹患率のピーク年齢が10歳くらい低く、40歳代後半とされています。若い女性の場合は超音波を使った検査のほうが適しているのではないかとの指摘もあり、現在日本で臨床試験が行われています。発症年齢の若年性、乳房の大きさ、密度のちがいなどから最適な検診方法が欧米とは異なる可能性は十分にあります。

 
乳がん治療について:                                
専門家として日本やアメリカにおける乳がん治療の最大の違いは何でしょうか?

一番の違いは日本では乳腺外科医が乳がん治療の初めから最後まで治療をするという事でしょうか。乳がんの治療は多岐に渡っており、診断、手術、抗がん剤の治療、さらに放射線治療とそれぞれの専門医がその専門を生かしてチームとして一人の患者さんの診療にあたる体制と人材が確保されています。また患者さんの方もそのような診療体制になれていて、それぞれの専門家の意見を取り入れることを積極的に望んでいる姿勢もあります。

 
日本、アメリカで医師と患者さんとのコミュニケーションの方法と術の違いはどのようなものでしょうか。

アメリカでは Shared discussion making といって医師として患者さんの検査内容と治療方針のすべて患者さん本人に伝え、十分に理解していただいて共にその本人にあった治療方針を決めていく事が前提になっています。しかしながら日本ではまだPaternalism(注)といった傾向があり、医師によっては患者さんが理解できないだろうと判断して患者さんに一部の検査内容しか伝えていない事があったり、患者さん側も“先生にお任せします”といった傾向がまだある様に見受けられます。時間はかかりますが患者さんの反応をみながら必要な情報を提供し、一歩一歩納得した治療方針を決めていくことで前に進んでいけるのではないでしょうか。アメリカではASCO(American Society of Clinical Oncology:アメリカ臨床腫瘍学会)の医師へのガイドラインではすべての患者さんの治療に対する情報開示を提唱しています。

 
日本の患者さんは乳がん検診、検査、治療に関する最先端の情報を得やすい状況におかれているとおもいますか?

最近は乳がんに関する情報がだいぶ入ってくるようになったと思います、反対に正確ではなく偏った情報が独り歩きしてしる危険性も多分にあります。患者さんもどんどん勉強をしていただいてそれらの中から正しい知識を学んでいただきたいと思いますし、医療従事者側も正確に伝える努力が必要だと思います、また日本のメディアの方々にもどんどん勉強していただいて、正確な情報を提供していっていただきたいと思います。アメリカでは主要テレビ局には医師の資格を持ったコメンテーターがあり、その方々がしっかり取材し、コメントしています。

 
山内先生は去年2010年6月に聖路加国際ブレストセンター長に就任されました。聖路加ブレストセンターはこれまで日本の乳がん治療をになってきたブレストセンターのひとつです。  山内時代にはどのような発展を考えておられますか?

聖路加ブレストセンターはチームとして一人一人が患者さんにかかわり、患者さん中心の医療を実施しています。それぞれの専門性を生かしてその専門分野の情報を提供し、意見を交換し、一人一人の患者さんの治療の向上を目指します。例えばアメリカのようにお子さんがいる方へのサポートとしてお子さんにどのように病名を伝えたらいいか、お子さんの気持ちの変化にどう対応したらいいかなどを専門の小児科医、心理士がサポートするシステムもあります。また妊娠を考えている方の治療を行うときにその可能性を少しでも残すため、産科の専門医との連携も積極的に行っています。このチームでの診療をより多くの方が得ることができるように取り組んでいきたいと持っています。また世界に向けて日本や聖路加のデータを発信していきたいと考えています。

 

(注) Paternalism 医療{いりょう}父権主義{ふけん しゅぎ}[パターナリズム]
◆もっぱら医師が治療方針などを判断・決定するという考え方。情報を提供して患者が自己決定する立場と対比され、不治の病について本人に知らせない倫理観とも結び付く。


山内英子(ひでこ)先生について
聖路加国際病院、ブレストセンター乳腺外科部長。
1987年順天堂医学部卒業。聖路加国際病院外科レジデントを経て、1994年渡米。ハーバード大学ダナファーバー癌研究所、ジョージタウン大学
ロンバーディ癌研究所でリサーチフェローおよびインストラクター。ハワイ大学にて外科レジデント、チーフレジデントを終了後、ハワイ大学外科
集中治療学臨床フェロー、南フロリダ大学モフィット癌研究所肉腫臨床フェロー。2009年4月より聖路加病院乳腺外科医長と経て2010年月に
聖路加の乳腺外科部長に就任されました。米国外科学集中治療専門医、米国外科認定医の資格もお持ちです。