BCネットワークは,アメリカ認定の非営利団体です。 日米両国に在住の日本人女性達に乳がんに関する最新の情報 、乳がん治療後の生活の取り組み、乳がん早期発見、 啓発情報発信を押し進めていく非営利団体です。 Knowledge is power.  正しい知識は患者自身の力、支えになると信じて活動しています 。

「医師と患者のコミュニケーションについて:乳がん患者の生活の質を向上させるには」   

2010年10月


Physician-Patient Communication:
An Opportunity for Improvement in the Lives of Women with Breast Cancer
医師と患者のコミュニケーションについて:
乳がん患者の生活の質を向上させるには

Freya Schnabel, MD
Director of Breast Surgery,NYU Langone Medical Center
フレヤ·シュナベル医師
乳腺外科部長 & ニューヨーク大学外科教授

2010年7月10日に開催された第二回乳がんシンポジウム@横浜での基調講演から)原文はこちら
内容:科学的な歴史、患者の権利の歴史、増える複雑な治療方法、臨床試験、そして患者団体について

1.Historical Perspective 歴史的な観点から

 最初にBCネットワークの山本眞基子氏をはじめ、このセミナーに協力、協賛されている全ての関係者の方々には、私が皆様とこのようにお会いする機会を与えてくださったことに心より御礼申し上げます。そして日本だけでなく世界中で乳がん患者生活の質の向上に力を注いでいる皆様が今日、このセミナーに来てくださったことにも感謝をしたいと思います。

 通常ですと私が乳がんに関する講義をするときには科学的な根拠を用いて議論をしていきます。たくさんのスライドで表やグラフを見せながら統計的に表されたデータを議論していきます。しかし今日は乳がんを患った女性にとって非常に大切でありながらも、科学的や統計的には議論することのできないお話をさせていただきます。そのトピックというのは医師と患者のコミュニケーションについてと、乳がんの支援運動についてです。

 近代的な検査や治療方法が確立する前は患者が自分の病気について知るというのはあまり重要なことではありませんでした。事実、多くの場合、患者に治療を施していた人々は人体の仕組みや病態生理学などほとんど理解してなかったといえるでしょう。

 病気のメカニズムがより深く明らかになり、予防方法が理解されるにつれ医師が患者にその方法を教え伝える機会が増えました。その良い例としては感染症や伝染病です。コレラや黄熱病の原因が確認された時に蔓延をふせぐために公に情報を流すことが非常に大切でした。このような伝染病を防ぐための公衆衛生対策は医療に携わるプロフェッショナルたちが公に情報を開示することの重要性を理解し、一般の人々の協力を引き出した最初の例といっても過言ではないでしょう。

 それ以降、患者の協力によって私達はたくさんの予防可能な病気を発見し、改善することができました。代表的な例としては糖尿病と心臓病で、どちらも患者が率先して行なう食事法や運動法が治療の成果の鍵を握る病気です。患者が食事や運動についてのアドバイスを守るためには医師や他の医療関係者がその食事、運動方法が自分の生活に与える良い影響を教え、理解させることが必要で、そのためには医師と患者がお互いに話し合うことが必要です。

 医師と患者がコミュニケーションを図る利益の一つとしては患者が生活習慣を変える方法を知る事で病気を予防し、病気にかからないよう改善することなのです。


2. Patients’ Rights perspective 患者の権利についての見解

 私達の社会では個人の権利にますます重きを置いています。近代社会では個人の権利というものは自立していて、自己で物事を決定できる権利と記されるまでに大変な労力を払いました。このことはアメリカで患者の権利に重要な影響を与えることになったのです。全ての病院にはっきりと患者権利法が貼ってあり、治療を施されるときに受け取けとるべき様々な権利を並べ上げています。このような権利は誰が患者を治療しているか、どのような治療内容なのかということを知る権利が含まれています。

 私達医師は全ての治療にインフォームドコンセントを得ることが義務付けられています。インフォームドコンセントとは患者が医師が薦める治療の理由、リスクや利益、また他の治療方法などといったことを知らされ、その事について話し合うことをいいます。

 患者が良いインフォームドコンセントを得るためには患者が自分の病気について詳しい治療方法や、考えられる結果などを理解しなければいけません。このようなことを理解せずにインフォームドコンセントはありえません。またこれは法律的な問題でもあり、アメリカでは医療関係者が患者の同意を得ずに医療行為を行った場合医療過誤として訴えられるのです。これはまた倫理的、道徳的にも問題があります。

 時と場合によっては白黒はっきりとして見えている事柄でも実はそうではないこともあります。年をとった患者の家族が助かる見込みがない病気の診断を聞いたときにその患者に告知をしないでくれと要求することがたまにあります。これはその悪いニュースを受け取った際に生じる感情の起伏を避け、傷つきたくないからなのです。この、“おふくろには知らせるな”症候群は特定の民族や宗教に良く見られることがあります。

 私がまだ駆け出しのころ、患者に何も教えないことは絶対に間違っていると強く思っていました。しかしながら現在では、特定の患者にある程度の情報のみ知らせするという状況もありえると思います。そして家族ではなく、患者があまり負担にならずに情報を得る事ができるようにしたいとおもいます。

 しかしながら、患者の家族は患者が自分の病気の事やあまり良くない病状だと知らないだろうと思っていますが、たいていの場合患者はすでに知っていると思ってくださいといつも家族に言っています。そしてこのようなあまり良くない秘密を隠し続けている不安というのはすべての人にとって大変ストレスになるかもしれないでしょう。この時点では病気に対して完全に告知されていない患者はいかなる治療や処置に対するインフォームドコンセントを与える事ができません。不十分に告知されるということは自分のために物事を決定するという権利を奪い取られる事なのです。それゆえに病気に関して秘密にされるというのは患者の病気に余計なストレスを加えるかもしれません。

 不十分な告知では患者は暗闇にいるような感覚におちいったり、医師などが持っている重要な事実を知らされていない事で患者は主導権をにぎれなかったり、自信喪失といった感情をいだくかもしれないでしょう。それゆえ医師、患者の適切なコミュニケーションは患者が物事を決める際の個人の権利を守り、治療に対する満身の同意を得て、自分がコントロール不可能というストレスを取り除くことに一役買うことができます。

 私達が乳がん患者に施す治療というのは多様な画像診断を含め、ますます複雑になってきています。例えば手術、放射線治療、化学治療、ホルモン療法、そしてハーセプチンなどの個別治療を含め様々な治療法があります。このような複雑なレベルですと、医師と患者が様々な治療法についての内容とそれに伴うリスクと利益を率直に話し合うことが必要です。

 多くの研究では治療ついて理解している患者は治療計画によくしたがうことができているとのことです。私の見解では治療に関してよく知らされている患者ほど副作用により良く対処できていると思います。何故その治療が施されるのか、そして期待される効果といったことを理解することにより患者が治療計画に沿う事の重要性を知ることができるからです。

 インフォームドコンセントを確保するために情報と教育が必要だという一番良い例は臨床試験です。臨床試験は非常に重要で過去数十年間、数え切れないほどの乳がん治療を促進させたのは周知の事実です。患者が臨床試験に参加するにはリスクと利益などその試験について詳細に知らされていなければいけません。そうすることで初めて同意書を渡す事ができ、試験に参加する事ができるのです。

 このような患者教育と情報についての概念が臨床試験に同意する際に不可欠であるならば患者が従来の治療法に同意することも同じように重要であるべきです。再度申しますと、いかに医師と患者がオープンにコミュニケーションをとることが新しい治療法を含めすべての治療法でよい結果に導びくということがわかります。

 最後になりましたが重要な事としては患者支援団体についてです。日本でも同じ様だと期待していますが、アメリカでは患者支援団体の概念が医師と患者の関係の発展に非常に貢献しています。アメリカの患者支援団体は乳房温存手術についての情報を広めることに一役かっていて、おそらくある程度の医療関係者がその新しい手術についてのデータを信用し、取り入れた以前のことだったでしょう。

 過去20年の間にスーザンGコーメン乳がん財団のような患者団体がアメリカ政府の乳がんに関する研究費用の増加に力添えをしています。このような団体はアメリカにおける乳がん検診の重要さについての意識を上げ、すべての女性がマンモグラフィー検診を受けれるように努力をしています。このような患者団体の貢献は計り知れません。

 また患者団体は患者の意見が医療決定に反映することの必要性を力説し、アメリカにおいて臨床試験を検討する際に患者擁護者を含める事が必要条件となったことに関与してきました。それゆえに患者の視点が試験方法や結果を観察するときに取り込まれているのです。

 患者団体は患者の声が医師に届くように主張し、また患者にとっての利益を無視した治療を決して行わないようにと私達医師に再認識させてくれるのです。支援団体は医師と患者の関係の縮図を表しています。医師と患者、両方が治療過程に十分に参加する事により、結果を得る事ができるという考え方なのです。

 世界中の医師、科学者、そして女性たちが一丸となり協力し合う事で乳がんに打ち勝つ最高の機会を得ることで将来の女性の生活から乳がんの脅威を取り除く事ができることは疑いありません。

 今日、この場を与えてくださり大変光栄に思います。私が乳腺外科として強調する事は患者には治療に対し十分に参加することを勧めているということです。私は治療選択について患者に十分に選択を与えることが義務だとおもっておりますし、患者にとって最適な治療法を決める事ができるまで質問したり、話し合いをする事を期待しています。きちんと告知をされ、治療をおこなっている患者にはより治療内容に従おうとする姿勢がみられます。

 また私は患者団体が乳がん治療の研究に深く関わっている役割を評価しています。今日、皆様には乳がん撲滅運動にこれからも参加なされるようお願いするとともに、BCネットワークの活動に拍手をおくります。

 今日はご清聴ありがとうございました。次のパネルディスカッションを楽しみにしています。