Updated 2010-07-23
Molecular advances in early breast cancer
(早期乳がん治療の分子レベルでの進歩)
Harvard Medical School
Harvard Women’s Health Watch
Volume 17 Number 2
October 2009
原文はこちら
乳がんは、患者さんの数と同様に多様です。
現在、個々に応じた治療をするために遺伝子レベル情報を使用するようになりました。
50年前、乳がんは“治療の王道”にそって画一的な治療をしました。“治療の王道“とは、広範囲に及ぶ乳房全摘、その後 放射腺治療です。
そのような辛い治療をしても再発をすべての乳がんで防ぐことはできないこともありました。そして1970年末までには、サイトキシン系の化学治療 (細胞分裂早いがん細胞だけでなく、健康な細胞までも共に殺す強い薬品)が治療に付け加えられました。その副作用には、吐き気、脱毛、しびれ、それに”キモ・ブレイン“(頭がボォっとする、忘れっぽくなる、集中できない、考え事ができないなど)でした。
“治療の王道”にそって画一的な治療をしていたのは医学が進歩していないからではありませんでした。研究者たちは、すべての乳がんが同じであるとは思っていませんでした。中には、手術だけでがんが治療できる、ホルモン治療が有効だ、そして少数派で化学治療が必要といった専門家がいました。しかし、どの治療がどのがん細胞に有効かということは誰しも確証があるものではなかったのです。そういう背景ですべての患者が同一方法で治療を受けることになっていたのです。
現在、核科学が進歩し、臨床医たちはどの治療が最善か区別できるようになりました。最新の乳がんの研究では、根絶しやすい乳がんとそうでない乳がんを区別する特定の遺伝子とたんぱく質のレセプター(受容体)の研究に重きを置いています。その過程で明らかになった事は、乳がんは一種類ではなく異なる治療法に反応する疾患の集合体であるということです。
レセプター(受容体)の役割の発見
19世紀からエストロゲンが乳がんの増殖を促進することはわかっていました。しかし、がんの増殖を抑えるために エストロゲンが受容体の細胞核に着かないように阻害する方法は 1960年代まで科学者にもわかりませんでした。乳がん組織内のエストロゲン レセプターの発見は、エストロゲンをブロックするタモキシフェンのような薬剤(薬品名ノルバデックス)の開発に結びつきました。タモキシフェンは、エストロゲン レセプター陽性の乳がんの再発のリスクを下げるだけではなく、将来乳がんになるリスクの高い女性への予防的医療の選択ともなりました。
10年後、研究者は別のHER2というレセプター(受容体)を発見しました。それは、乳がんの増殖に拍車を掛ける上皮細胞増殖因子のドッキング・ステーション(接続架台)の役割をします。HER2は、正常な乳房の細胞内に存在しますが、乳がん件数の約五分の一の割合にHER2が異常なほど多く存在し それによって乳がんが増殖すると考えられます。エストロゲン レセプター陽性の場合と同様、HER2陽性の腫瘍にはターゲット治療薬があります。この薬剤はトラスズマブ(薬品名ハーセプチン)といい、レセプター(受容体)をブロックし、細胞の分裂を阻害します。従来の科学治療に続いてトラスズマブを治療に組み込むことによってHER2陽性の乳がんの再発を少なくし生存率を高めています。
BRCAの解明
すべてのがんは、遺伝子の疾患 つまり DNAの突然変異によるものです。DNAは、がん細胞を含む細胞に成長や増殖するように指示を出します。DNAの個別の部分は遺伝子といいそれぞれの役割を指令します。例えば あるたんぱく質を合成するなどです。90年代になって、遺伝子があるタイプの乳がんに関与するということが判明しました。1994年に発見されたBRCA1とBRCA2です。通常のこれらに相当する遺伝子は、DNAを修復するたんぱく質を製造します。しかし、遺伝性乳がんに見られる遺伝子の変異がある場合、これらの遺伝子は普通の働きをしないためDNAにダメージをあたえることになります。人間の大半の遺伝子は2つずつあります。BRCA遺伝子の1つに異常がある場合、残りのもう1つでDNAの修復をします。しかし、これに該当する女性の65~85%は最終的に乳房組織内の遺伝子は正常な働きを失い、70歳までに乳がんに罹患します。
BRCAの発見は、ハイリスクの女性の乳がん予防方法に大きな変革をもたらしました。なぜなら、変異したBRCA遺伝子は全身の細胞内に存在するので、簡単な血液検査で見つけられるからです。この変異した遺伝子を1つ持つ女性のために、いくつかの対策があります。例えば、ママグラムとMRIを頻繁にしてスクリーニングする。乳がんのリスクを下げるためにタモキシフェンを服用する。または、両方の乳房を全摘するなどです。BRCAに変異がある女性の大半は卵巣摘出を選びます。それは、BRCA遺伝子の異常は、卵巣がんのリスクを上げるからです。卵巣がんの早期発見は難しく、摘出手術によりリスクを90%減らすことができます。
さらに最近の研究では、乳がんと他の変異した遺伝子(ATM、CDH1、CHEK2、p53、PTEN、STK11など)が関係あるとしています。しかし、これらの遺伝子の変異が一般女性の乳がんのリスクをどれほど上げるかはまだ解明されていません。
遺伝子の後天性欠陥
BRCA1とBRCA2遺伝子と関係して発生する乳がんと違い ほとんどの乳がんは遺伝性ではありません。遺伝子の突然変異は関係あるものの それは世代を越して遺伝するものではありません。それより DNAの複製の時の細胞分裂のときにエラーとして突然現れるといってよいでしょう。遺伝性の変異と違い、これらのエラーは体内のどの細胞にあるというわけではありません。乳房の細胞内にのみ存在します。あらゆる環境的要素が関係します。放射線が直接DNAに傷を付ける、加齢、細胞の過剰分裂、それらによって細胞の複製のときにエラーをおこすのです。乳がんで、2つともの遺伝子変異が最もよく見うけられるのはHER2(上皮細胞増殖因子の遺伝子)とRNA(小さな規制の働きをする分子で遺伝子の増殖を刺激や抑制する)です。
2009年6月、研究者たちは別のレセプターAGTR1の発見を発表しました。レセプターAGTR1 が異常に多く、正常値の20%増しという事も乳がん患者にはあります。正常な細胞の場合、AGTR1はアンジオテンシンⅡ(血圧を上昇させ、細胞を成長させると言われている)と結びつきます。このレセプターはエストロゲン・レセプター陽性とHER2陰性の腫瘍にのみ過剰表現します。
新しい腫瘍分類システム
昔から 乳がんのステージ分類は腫瘍の大きさ、脇のリンパ節への転移、がん細胞の細胞分裂の速さで分類されてきました。核レベルでのがん研究が進歩したことで新しい分類システムが出来つつあります。それによると早期乳がんは次の4つのタイプに分けられます。
Luminal A (ルミナルA)
腫瘍は、エストロゲンとプロゲステロン レセプター陽性で、HER2陰性。遺伝子を見ると他の腫瘍と比較すれば正常な乳腺組織に似ています。そして、再発のリスクは低めとされいます。他のタイプと比べると早期乳がんに多いタイプです。
Luminal B (ルミナルB)
このタイプの腫瘍は、エストロゲン、プロゲステロン、またはその両方のレセプターに陽性です。しかし、ルミナルAと比較した場合 レセプターの数は少ないです。遺伝子ではルミナルAより異常なものが多くあります。早期乳がんのうち8~15%に相当し、リスクは中から高とされています。
HER2 (ハーツー陽性)
このタイプの腫瘍は、上皮細胞増殖因子に関係する遺伝子に変異があります。早期乳がんの20%を占め リスクは高めとされています。
基底がんに類似した乳がん
このタイプの乳がんは、エストロゲンとプロゲステロンとHER2のすべてに陰性でのため ”トリプル・ネガティブ“といわれます。早期乳がんの15%を占めます。このタイプの腫瘍は、増殖と転移が早いため リスクは高いとされています。他のタイプと比較するとBRCA1遺伝子変異がある人がこのタイプのがんになるようです。リンパ節に転移する前に見つかるので、従来の分類ではリスクは高いとされていませんでした。
マンマプリント(MammaPrint)とオンコタイプDX(Oncotype DX)という2種類の新しい遺伝子検査を再発のリスク判断に使う専門医もいます。これらの検査結果を見て 乳がんの再発のリスクやどのくらい積極的に治療をするか判断するのです。マンマプリントは70の遺伝子を調べます。(下図参照)オンコタイプDXは21の遺伝子を調べます。腫瘍は、異常のあった遺伝子の数で表されます。そして、この数値を用いて向こう10年以内に再発するリスクを計算します。マンマプリントは、61歳以下の女性で腫瘍が乳房内に留まっている場合のみに使われます。この検査には、手術室で切除後すぐの乳腺組織が必要です。オンコタイプDXは、エストロゲン レセプター陽性でリンパ節の転移が無い場合に有効な検査です。この検査には病理科で分析に使った固定組織を使います。
遺伝子発現パターンと乳がんの予後

(上)70の乳がん予後を見る遺伝子
(左)78腫瘍のサンプル
(右)転移:白い部分=+
(右)上から 低いリスク 分岐点 高いリスク
Source: Based on MammaPrint microarray data; courtesy Agendia BV.
個人個人に適切なターゲット治療
がん専門医は、早期乳がんの患者さんに より有効な治療計画を立てるために遺伝子ベースの検査をします。
●エストロゲン レセプター陽性のどの女性が再発のリスクが高いのか。そのためタモキシフェン服用と共に化学治療をして効果があるか。
●HER2レセプター陽性である患者さんの中で誰が、手術前に化学治療とターゲット治療(トラスツズマブ)をすれば効果があるか。(再発を防げるか)。手術前の化学治療をすることは、ネオーアジュバント療法と呼ばれます。)
●どの患者さんがエストロゲン レセプター陽性でCYP2D6 (肝臓から出る酵素でタモキシフェンなどの特定の薬剤の代謝を助ける) を持っているか。タモキシフェンを効率よく代謝していない患者さんの場合は、閉経していれば、アロマターゼ阻害薬を代わりに処方します。(アロマターゼ阻害薬は、閉経後の女性のエストロゲン レセプター陽性の場合に効果があり、代謝にCYP2D6を必要としないからです。)
近い将来
さまざまな乳がんのタイプのターゲット治療をするために、数々の新しい治療の取り組みがされています。最も前途有望なものは以下です。
PARP阻害薬(トリプル・ネガティブ用) PARP inhibitors for Triple negative breast cancer
PARP阻害薬の核は、ポリ・ポリメラーゼを遮断します。ポリ・ポリメラーゼとは傷ついたDNAを修復する酵素です。健康な乳腺組織は細胞分裂の時に発生するエラーを複数の方法で訂正します。しかし、BRCAの変異のある乳がんの細胞は、DNA修理の方法を失っているため別の方法(PARP)を使います。PARPをブロックする薬剤は、がん細胞が死滅するまでDNAの傷を放置しておきます。その間、正常な細胞をほとんど傷つけることはしません。2つの初期の研究では、2つのPARP阻害薬(オラパリブとBSI-201)が顕著に乳がんを小さくしました。オラパリブは進行したBRCA陽性の乳がんに、BSI-201はトリプル・ネガティブの乳がんに使用されました。
ミクロRNA補充療法 MicroRNA replacement therapy
ミクロRNAは、とても小さい核で体内の調整の働き(体内の特定部でたんぱく質が刺激をうけて成長するのを抑制)します。この意味合いで、この核は細胞の増殖を抑えます。正常な細胞と比較すると乳がんの細胞内ではミクロRNAの数は少ないです。2009年6月、ネズミを使った実験で ミクロRNAをがん細胞の中に入れると、がん細胞が小さくなったと研究発表がありました。この実験は、まだ人体では行われていません。
ロサルタン Losartan
この薬剤は、アンジオテンシンⅡ阻害薬です。現在血圧を下げるために処方されています。最近のネズミを使った実験で ネズミの体内に移植された大量のAGTR1受容体を持つ乳がんがこの薬剤によって小さくなったと報告されました。この方法は、まだ人体では行われていません。
What to do
あなたが乳がんと診断されたなら、腫瘍内科医に以下のことを質問すればよいでしょう。
マンマプリントかオンコタイプDXの分析
エストロゲン レセプター陽性の腫瘍の場合、これらの検査をする事によって、タモキシフェンのホルモン治療に加えて、化学治療をすべきか、しないでも良いかの判断が出来ます。
CYP2D6の検査
この検査は、エストロゲン レセプター陽性の閉経した女性のみが対象です。CYP2D6に欠陥がある場合、タモキシフェン治療の後 再発のリスクは4倍とされています。この検査をすることによって、アロマターゼ阻害薬をタモキシフェンに置き換えるほうがよいかどうか判断できます。
トリプル・ネガティブ乳がんのための複数の遺伝子分類
遺伝子の分析結果を使い、いくつかの検査をすることによってより効果的な治療法が探せます。例えば、腫瘍に数多くの上皮細胞増殖因子の遺伝子がある場合には、セツキシマブ(商標名エルビタックス)を処方するとよいとされています。(この薬は、上皮細胞増殖因子をブロックします。)
最後に
早期乳がん患者さんへのうれしいニュースは、ターゲット治療が最先端となって、個々の遺伝子に合わせた治療法が急増していることです。
さらなるターゲット治療の進歩が、個々の患者さんの治療にうまく命中する日が来るのもそこまで来ています。