Young Japanese Breast Cancer Network




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“トリプルネガティブの乳がんをターゲットにする”

“トリプルネガティブの乳がんをターゲットにする”

FALL 2009, CURETODAY.COM
(Nicole Lebrasseur 博士とHeather L. Van Epps 博士共著)


ようやくトリプルネガティブの乳がんに対して何かができるようになるかも知れない


“基本的に私は今まで自分はがんになると思いながら生きてきました。いつ乳がんになるかという時だけが未知でした。”と アメリカ フロリダ州在住の42歳 教師のナンシー トゥルスデールさんは言います。彼女は母親を卵巣がんで亡くし、祖母を乳がんで亡くしていたので自分はがんになる確率は非常に高いと知っていました。だから、昨年7月の乳がん検査で右の乳房にしこりが見つかったときには驚きませんでした。

彼女のしこりはバイオプシー(生体検査)の結果、トリプルネガティブ(またはTNBC)だと判明しました。トリプルネガティブとは、腫瘍の細胞に他の乳がんによくある3種類のたんぱく質(エストロゲンホルモン受容体とプロゲステロンホルモン受容体とHER2という増殖要因の受容体)の表現がないということです。

しこり(ステージ2と判明)を取り、12週間の化学治療を2セットし、反対側の健康な乳房も予防的に手術でとり、子宮がんの危険因子があったため子宮もとり、そして薬品名アバスチン(薬剤名ベバシズマブ)の治験に参加しました。トゥルスデールさんに、現在がんは再発していません。“私は、がんの可能性を身体から取り除くためにできることをすべてしました。そうしないと、ただじっと(がんの再発を)待っているだけですから。”と言います。

全米で毎年見つかる新規の乳がん約190,000件のうち10~20%がトリプルネガティブです。

トリプルネガテイブ(TNBC)は乳がんのなかでもたちが悪いとされています。それは腫瘍が侵攻性であり、そのため転移の可能性が高く、そして、ターゲット治療法としての、HER2陽性の乳がんに処方される薬品名ハーセプチン(薬剤名トラスツズマブ)やホルモン受容体陽性の乳がんに処方されるタモキシフェンやアロマターゼ阻害剤が効かないからです。ですから、現在アメリカでスタンダードとされているトリプルネガテイブ(TNBC)の治療方は抗がん剤の化学治療で、それがトリプルネガテイブには一番効果があります。抗がん剤のターゲットは分裂の速い細胞に対してであるので、トリプルネガテイブ(TNBC)の腫瘍の細胞分裂は速いので効果があるのでしょう。

しかし、そのスタンダードはもうすぐ変わるかもしれません。トリプルネガテイブ(TNBC)用のハーセプチンのようなターゲット薬はまだありませんが、研究者はターゲット治療薬を開発するためにトリプルネガテイブ(TNBC)特有の核の特徴を特定しつつあります。もし 最新の治験の結果によってはトリプルネガテイブ(TNBC)のターゲット治療ができるようになるのはもうそこまで来ているかもしれません。

要点(ポイント)


トリプルネガテイブ(TNBC)は閉経前の女性とアフリカ系アメリカ人によく見られ、進行が速いため 最初の診断から3~5年という早い時期に再発する危険率が高いです。

トリプルネガティブの腫瘍の核がどのような特徴を持つかは、明確になっているのですが、具体的な用語で表すのは困難です。アメリカのマイアミにある Sylvester Comprehensive Cancer Center の腫瘍内科医のマーク ペグラム医師は“トリプルネガティブという言葉は、ナンセンスは専門用語だ。全てではないが、トリプルネガティブの大半は基底がんである。”と言います。

推定65~90%のトリプルネガティブのがんは、基底がんに類似したがんで、つまり 細胞には典型的な乳腺基底細胞(成熟乳腺細胞を引き起こす前駆細胞または幹細胞)のたんぱく質があります。

基底がんに類似したという点は、BRACA1遺伝子の突然変異によっておこる遺伝型の乳がんの大半を説明できます。突然変異があるBRACA1遺伝子は、傷ついたDNAを修復するようにたんぱく質に指令を出すのです。実際、BRACA1によって起こる乳がんの大半は、基底がんに類似したトリプルネガティブ乳がんです。しかし、その関係は1対1ではありません。トリプルネガテイブ(TNBC)の患者さんの5~15%のみが変異したBRACA1遺伝子を持っています。                   

治療のプラン


がんに関して言えばネガティブという言葉、例えば、生体検査のあと陰性(ネガティブ)だった、とかリンパの転移はネガティブ(なかった)と聞くと普通はほっとするでしょうが、トリプルネガテイブ(TNBC)については同様の良い意味あいはありません。

最前線の治療としてのターゲット治療薬という選択が無いとするならば、TNBCの治療はがんのステージにかかわらず、抗がん剤を主力とする化学治療しかありません。ACTという組み合わせ、つまりアドリアマイシン(薬剤名ドキソルビシン)、サイトキサン(薬剤名シクロフォスファミド)、タキソール(薬剤名パクリタキセル)の組み合わせです。前出のトゥルスデールさんのように、リンパ節にがんが転移していない患者さんに(ステージ1または2)は、初めに手術で腫瘍を除去します。それから化学治療、続いて局部に放射線治療をします。

アメリカ ノース・キャロライナ州にあるノース・キャロライナ大学病院のブレスト センターの部長 リサ キャレイ医師は、“化学治療は、不当に悪いイメージを持たれている。化学治療は、とても効果的で数年前にくらべると毒性も少なくなっています。副作用についても、ターゲット治療の薬剤とくらべても必要以上に強いというわけではありません。もし、化学治療を手術前にした場合に効果が良く現れて、腫瘍が小さくなったり消えてしまうなら予後はすばらしいでしょう。”と言います。

もちろん 全ての人が化学治療に悪いイメージを持っているわけではありません。アトランタ在住の50歳の銀行員のクリス クーパーさんは、トリプルネガティブ(TNBC)の診断後2006年に4ヶ月間ACTの化学治療を受けました。その頃の思い出は特にいいというわけではありません。

“病院では、抗がん剤を‘赤い悪魔’と呼んでいました。”と彼女は言います。アドリアマイシンの色が濃い赤だからです。“髪の毛は抜けるし だるく感じるし、良い気分だったとはいえませんでした。”とも言います。しかし、治療後のクーパーさんの検査結果ではがんは無くなり 髪の毛も新たに生えてきました。しかし、以前のような茶色ではなく白髪でしたが。

アメリカ テキサス州のベイラー チャールズ A サモンズ がんセンターの乳がん研究所のジョイス オショネシー医師は、トリプルネガティブ(TNBC)の診断を受けた患者さんの多くは、死の宣告のようにとらえていると言います。“しかし、全てがそうではないのです。”と言います。なぜなら、ステージ1または2のトリプルネガティブ(TNBC)の多くは、治療後何年間もがんの再発が無い事が多いからです。そして リンパ節に転移のある(ステージ3または4)でも化学治療はよく効くからです。

トリプルネガティブ(TNBC)がそんなに悪いイメージになった理由をオショネシー医師は、次のように説明します。初めの診断から5年以内に約32%の人に再発が見られます。他の乳がんのタイプでは約15%ほどです。(2008年の研究では、5年以内の再発率は、ホルモン受容体陽性で手術後の治療もした場合13%としています。)そして、トリプルネガティブ(TNBC)の再発した場合の平均余命は9ヶ月ほどです。

再発の可能性があるということは、もっと効果的な治療法が必要ということです。
最新の研究では、どの化学治療がより効果的かということを研究中です。カルボプラチンとシスプラチン(すでに転移性のTNBCには使われていて実験件数が増加中)が特に有力ではないかとされています。この薬剤は、多くのTNBC細胞が依存する細胞の修復経路を妨げるので、エリック ワイナー医師(ボストンのダナ-ファーバーセンター機構の 乳腺腫瘍内科センター)は、“今までのACT化学治療より効果があるかもしれないといってもいいだろう”と言います。

増える治療の新兵器


新しい研究では、ターゲット治療薬は化学治療をさらに有効にするとしています。“私は、私の患者さんはいつの時期でも臨床実験に参加すればよいと思います。臨床実験に参加するのは、他に何も効果が無い場合だけではありません”とエリック ワイナー医師は言います。最近の成功例は、ターゲット治療薬がトリプルネガティブ(TNBC)の新兵器として確立されつつあることを示唆します。

前出のトゥルスデールさんのようなBRACA1の遺伝子に突然変異がある患者さんには、PARP阻害薬という薬品の種類が朗報です。正常なBRACA1遺伝子がない細胞にはDNA修復する機能ながなく、そのためDNAの傷の修復は別の方法に頼らざるを得ないのです。
この別の修復方法の一つがPARPと呼ばれる修復機能のあるたんぱく質で、DNAのらせん構造にある傷を修復します。
(*健康なたんぱく質を犠牲にしてDNAを修復するということ。)
PARP阻害薬は、DNA修復するという構造を断ち切ることで健康な細胞に傷をつけないようにして、腫瘍の細胞を殺すと考えられています。このような薬品のフェイズⅡ(アメリカの食品薬品局の段階)での研究は完了し、現在 黒色腫と特定のタイプの脳腫瘍の治療でテスト中です。

DNAの修復の機能を遮断


2009年夏、アメリカの臨床腫瘍学会(ASCO)定例学会で、オラパリブというPARP阻害薬をBRACA1、BRACA2の突然変異によって起こる腫瘍の後期治療法の第2段階目(フェーズⅡ)の治験の研究結果が発表されました。27人中10人の被験者が高濃度のオラパリブを受けることによって腫瘍が少なく見積もっても半分の大きさになりました。そして、副作用は軽いものでした。

オショネシー医師が行った無作為に選出された被験者からの第2段階目(フェーズⅡ)の治験の初期分析では、別のPARP阻害薬(BSI-201)が前途有望な結果を出しました。BSI-201を処方したことで、化学治療だけでは5.7ヶ月だった余命が9.2ヶ月になりました。そして、がんが進行しないという状態の期間が2倍(3.3ヶ月から6.9ヶ月)となりました。現在、第3段階目のトリプルネガティブ(TNBC )を対象としたBSI-201の治験の被験者を募集中です。

別の成功例はアバスチンです。この薬品は、増殖を誘発するたんぱく質(血管内皮増殖因子または、VEGF)を阻害することによって癌細胞内での血管新生を阻害するのです。増殖を誘発するたんぱく質(VEGF) 無しでは、腫瘍は生きていくための栄養が取れないのです。(それが抗がん作用となるのです。)アメリカでアバスチンは、脳腫瘍、肺がんや結腸直腸癌などの複数のがんの治療薬として認可されており、2008年に転移性のHER2陰性の乳がん、そして2009年には転移性の腎臓がんの治療薬として認可を受けました。

前出のクーパーさんは、アバスチンと化学治療の2種類の処方を受けたことによって 2008年初期に肺に見つかった転移がんの数を少なくすることができました。しかし、後にいくつかの新しい転移はでてきました。

クーパーさんは、“これはトリプルネガティブの典型的なパターンよ。”と言います。そして“憎らしい細胞は、どうにかして薬に立ち向かおうとしているようだわ”とも言います。彼女の肺の転移は6つから2つに減りました。そして、現在 化学治療の次のサイクルの間で体調はいいそうです。

最新のフェーズⅢ(第3段階目の臨床実験)では、トリプルネガティブ(TNBC)を含む転移性の乳がん対象でアバスチンをタキソールの後に追加しました。がんの進行が無いという状態の期間がタキソールのみでは5.9ヶ月だったのにアバスチンを追加した場合は、11.8ヶ月という結果になりました。しかし、総合的にみると生存率には変化はありませんでした。転移性がんでない場合に 化学治療後アバスチンを追加することが有益かどうかという新しい治験の被験者を募集中です。しかし、この結果がでるまでには何年もかかるでしょう。

ワイナー医師 (Eric Winer, MD-Dana-Farber Cancer Institute) は、“これまででPARP阻害剤ほど優れたものは無かった。しかし、他のターゲット治療薬も進んでいる“と言います。トリプルネガティブ(TNBC)の腫瘍細胞は、しばしば上皮細胞増殖因子の受容体(またはEGFR)のレベルが高く、そのために腫瘍細胞が増えるを助長します。エルビタックス(薬剤名セツキシマブ)のような薬品は、結腸直腸がんの転移がんに使われますが、上皮細胞増殖因子の受容体(EGFR)を阻害するということで、トリプルネガテイブ(TNBC) の転移がんにも有効であるかもしれません。

もう一つの治療方はまだ臨床実験が始まって間もない白血病の薬でスプリセル(薬剤名
ダサチニブ)というものがあります。細胞増殖と生存シグナルを伝達するサーク・キナーゼという細胞性酵素があり、この酵素はトリプルネガテイブ(TNBC)の一部の細胞を含むいろいろなタイプのがん細胞のなかで暴れまわります。スプリセルは、このサーク・キナーゼをターゲットとします。

この先になにがあるか


TNBCは、識別上ではまだ明確な特性に欠けますが、アメリカの医師たちは生物学がより進めばこの病気の治療法は発展すると楽観視しています。

“過去6、7年の間、トリプルネガテイブの乳がんについて話す人はいなかった。しかし、製薬会社と研究者たちが、このタイプの乳がんの治療法の必要性に気が付くと新しい治療法は生まれることは、乳がん専門の私たちの多くは予期していた。エリック ワイナー医師は言います。

このワイナー医師の予想が実現するまで、トゥルスデールさんは、数字を良い方にとるようにしています。30%の確立でがんが再発するというよりも、70%の確立でがんに勝つのだというふうに。“それってとってもいい確率でしょ!!”


注1)すべての上記の内容は、アメリカの雑誌の記事を元にしている事をご了承下さい。
注2)基底がんに関しては 国立がんセンターの以下のサイトをご欄ください。