Updated 2010-07-23
女性自身 2009年 9月15日号 9月22日号(続き)はこちら
”乳房再建日帰り手術”を選択した理由
イラストレーター•恩田好子さんの「乳がん治療」実体験レポート
48歳のときに見つかった乳がんを聖路加国際病院で温存手術をした恩田好子さん(52)。しかし、術後の検査で「がん細胞」の取り残しが見つかり、追加切除をすることに。「望むなら温存はなんとか可能」という主治医の所見もあったが、温存手術は後に放射線治療を受けなければ乳房再建は難しくなる。恩田さんは思いきって全摘と再建の道を決意した。
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『温存』か、それとも『全摘•再建』かーーー。
乳がん治療を始めて、ずっと悩んでいた恩田好子さんに「全摘への決意」を後押ししたのは、形成外科医院で目にした手術結果の写真だった。
「温存とは名ばかりで、ひどく引き攣れたり、アンバランスは残し方をされてしまったり。そんな写真を目にしたときのショックは、とても言葉にできません」
恩田さんは今も脳裏に残るその映像を思い起こし、辛そうに目を伏せる。
「彼女たちは自分の手術あとを見たとき、医者に何か意見を言えたのだろうか?それとも『命が助かったのだから、ぜいたくは言えない』と涙をのんで口をつぐんだのか。ついそんな想像をして…」
「無理な温存は撲滅すべきです!」と声を大にするのは、恩田さんの乳房再建を担当した形成外科医の岩平佳子医師(ブレストサージャリークリニック院長)。
「思わずそう叫びたくなるほど、日本は温存主義に偏っている。そもそも温存という言葉から想像されるのは、そのまま乳房が残されるポジティブなイメージ。でも正確には「部分切除」といったほうが正しいのです」
治療のガイドラインでは、3㎝までのがんが温存の対象。しかし用心のために患部の周囲2㎝四方を含めて切り取れば直径7㎝。がんの位置やもともとの胸の大きさによっては、かなりの乳房の変形やアンバランスを余儀なくされるケースも出てくるという。
「一般的に外科医が考える『キレイな仕上がり』とは完全に患部を切除し、手術あとも美しいということ。でもそれは患者さんが求める『キレイ』とは、ときに大きく隔たるのが実情です」(岩平医師)
高い再建技術を持った外科医が少ない
ある調査によると、乳がんにおける日本の乳房再建率はおおよそ6%。乳がん医療の先進国アメリカでは地域によってばらつきが大きいが、20〜40%といわれている。全摘して新しい乳房を作ることは、ごく標準的な治療なのだ。
アメリカに在住する日本人の乳がん患者をサポートしてきたNPO法人で「第1回乳がんシンポジウム@聖路加」を開催後、日本での本格的活動を計画中の『BCネットワーク』代表者、山本眞基子さんによると、
「アメリカでは『母親も姉妹も乳がん』など家族歴の高い人が検査で乳がんの遺伝子を発見した際に、予防のために乳房を取ってしまうケースもあります」という。
では、なぜ日本では乳房再建が広まらないのだろうか。
恩田さんの執刀医である聖路加国際病院の矢形寛医師が説明してくれた。
「まず、これまで乳房の形成をする医師が非常に少なかったということ。もうひとつは日本では人工乳房に保険が適用されていないという問題。本当は温存•再建にかかわらず、患者さんになるべく多くの選択肢を持ってもらうのが望ましい。そうした情報の普及も含め、課題は残ります」
clickで拡大『人工乳房再建 』 さて、再建手段には大きく分けて2種類ある。自分の背中や腹部の脂肪と筋肉を使って乳房を作る『皮弁再建』と、シリコンなどを挿入して形成する『人工乳房』だ。
「皮弁には保険がきくし、自分の組織を使うので、うまくいけば自然な仕上がりになります。しかし手術の難易度が高く、移植のために健康な他の部分を傷つけるデメリットも」(矢形医師)
結局、恩田さんが選んだのは、乳がん手術の際に執刀外科医がエキスパンダー(皮膚を伸ばすための仮の乳房)を入れる『人工乳房の同時再建(1期的再建)』その後、形成外科医が何回かにわけてエキスパンダーに水を注入する。そして皮膚が伸びた後シリコンのバッグに置き換えられるのが一般的な方法だ。
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小学生の子どもを持ち仕事もある恩田さんには、治療も手術も日帰りですむ人工再建はありがたかった。
人工再建を選択する前、恩田さんは何人もの医師に、「本当に温存手術をして放射線治療を受けたら、その後の人工再建は不可能なのか?」と質問をぶつけた。そのうち1人の医師は「再建に強くこだわる患者さんなら、僕は全摘します」と答えたという。
恩田さんは心底驚いた。「私って、”強くこだわる患者さん”なんだ…」
乳房再建手術をした女性たちの美しさが表現されているアメリカのヌード写真集
形成にかける思いは、人それぞれだ。ある人は、以前のように好きな温泉に入りたいから、打ち込んでいたスポーツや踊り、楽器を続けたいから、という人も多い。
「私は下着が大好きなので、ブラジャーを選べる体でいたかった。実はこうなってから気づいたのですが、昔から自分の胸に自信を持っていたみたい。唯一、自分の体のなかで他人に褒められたり羨ましがられた部分でしたから」
やはり乳房は女性にとって特別な存在である。
岩平医師の病院では2期的再建(乳がんの手術が完了してから再建に着手する方法)で、エキスパンダーが入って少し膨らんだ胸を見ただけでうれしくて号泣してしまう患者も珍しくないという。
「脳転移して余命いくばくもない方の胸を作ったこともあります。もちろんご本人もご家族も承知のうえで。すでに肺に転移していて『ときどき胸に水が溜まって苦しくなりますが、問題ないので作ってください』という方も何人かみえました」(岩平医師)
だが、こういった女性の気持ちを理解してくれない医師もいまだ多いのが現実だ。
ある高名な老外科医の患者だった60代の女性が「再建したいから形成医を紹介してほしい」と頼んだところ、その医師がこんな暴言を吐いた。
「60過ぎて胸を作りたいなんて、精神科にでも行ったほうがいいんじゃないの?」
さて、恩田さんの左胸は無事エキスパンダーからシリコンバッグに移し替えられた。だが、術後の内出血でパンパンに胸が腫れたり、いつの間にかバッグが90度回転していたり。名医といわれる担当医師を信じているものの、予想もしないことが起こるたび恩田さんは不安に揺れた。
「よし、次は乳首の再建だ!でも、まだ何が起こるかわからない…」 つづく