Young Japanese Breast Cancer Network




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非浸潤性乳管がんを考える

2008年10月

非浸潤性乳管がんを考える  Understanding ductal carcinoma in situ  


from Harvard women’s Health Watch 
                                                                       Vol 16/number 2     October 2008

DCIS(非浸潤性乳管がん)って何?
この病名をみると病気がどんなものかわかります。“Ductal“は、病気の発生した場所、つまり母乳を作る小葉を繋ぐ細い管のことです。”Carcinoma”とは、乳管の上皮や内膜に腫瘍が発生していることを意味します。“in situ”とは、その腫瘍が発生した場所に留まっていて、周囲の細胞や体の他の部分に転移してないということです。

正常な状態からがん化していく過程の細胞の塊りがあるときにDCISと診断されます。この過程は、乳房の細胞の遺伝子的な変化から始まると考えられています。まず、この変化が細胞の成長を刺激し、乳管過形成(正常な細胞過剰な増殖)を引き起こします。それが乳管をいっぱいにします。そして 2段階目の過程で、細胞が変異をはじめ 顕微鏡でみると細胞が正常でないことが確認されるようになります。この変化の段階は、異型乳管過形成(atypical ductal hyperplasia)といい、細胞の増殖性は さらに強くなります。DCISはこの過程の3段階目にあたり、異常な細胞が乳管を存在するが乳管内に留まっているという状態です。

発がん現象は、必ずしもこれらの段階を踏むとはいいきれませんが、病理学者はこれらの過程を以上のような段階に分類し、病気の経過の指標としました。

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図の上から非浸潤性乳管がん、乳管過形成、乳管、小葉





非浸潤性乳管がん(DCIS)は、乳管内での変異した細胞の異常増殖です。乳管過形成という正常な細胞が乳管内での増殖から始まります。そして この乳管内の細胞が変異し増殖を始めます(異型乳管過形成)。その後 がん化した細胞が乳管に溜まり非浸潤性乳管がん(DCIS)となるのです。
浸潤性乳管がんとは、変異(がん化)した細胞が乳管の外に浸潤している場合を指します。


DCISの診断
DCISも他のがんと同様、放射線科医、外科医、病理学者などの複数の医師によって診断されます。診断には下記の検査を用います。
マンマグラフィー:

マンマグラフィーを受ける女性が増える事でDCISの診断(乳がんの早期発見)が増加傾向にあります。DCISの腫瘍は、乳管内に潜み 小さすぎるため病気の症状が現れるわけでも、触ってもわからないことがあります。1970年後半にマンマグラフィーが通常の定期健診になるまで DCISは、生体検査(バイオプシー)をすることによって付随的に見つけられました。また、そういうケースは稀で乳がんの診断の1%以下でした。今日、毎年の定期健診のマンマグラフィーにより 小さな石灰化段階で(微小石灰化)レントゲン映像に線、あるいは塊として写り、がんであるということが判る様になりました。マンマグラフィーの性能がよくなるにしたがってDCISの診断も正確になってきました。2005年(最新の統計)では、DCISは新規の乳がんの診断の20%強になります。

MRI:

MRI(磁気共鳴映像法)は乳房の映像を見るために使われることが増えています。しかし、DCISの検査には、マンマグラフィーより数段優れているという結果は出ていません。

バイオプシー(生体組織検査法):

DCISの疑いがあると がん細胞であるか否かを確かめるためにバイオプシーが必要です。最近の(アメリカでの)バイオプシーは、手術室より放射線科の部屋でされることが多くなっています。最も一般的な方法は、定位コアバイオプシーで、超音波の映像を見ながら乳房の微小石灰化した部位へ太い針 または 細い吸引チューブを差込、細胞のサンプルを採ります。しかし、マンマグラフィーで広範囲に微小石灰化が見られる場合は外科生検が勧められます。

病理結果: 

病理学者は、バイオプシーで摂取した細胞がどれだけ正常な乳房の細胞と違っているか分析します。顕微鏡を用い、細胞の構造と配列を見ます。採取した細胞がエストロゲンとプロゲステロン(共に女性ホルモン)受容体陽性かどうか、あるいは がんに関係する遺伝子の異変があるのかなども調べることがあります。


細胞の特徴と増殖のパターンを考慮して、ロー・インターメディエート(中)・ハイグレードとがんを3つにグレード分けます。この分類は摂取した細胞が正常な細胞からどれほど変異しているか、どのくらいの早さで増殖していくであろうかということによって分けられます。


DCISの治療
最近のDCIS(マンマグラフィーによって見つかったもので しこりが大きくなってからからではない)の治療のデータはそれほどありません。1980年以前はDCISは、浸潤性の乳がんと同様の乳房全摘の手術をしていました。
この状況はアメリカでの大規模な腫瘍内科の研究(National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project)が1983年に発表されてから変わり始めました。その発表は、小さな浸潤性の腫瘍を部分切除した後放射線治療をした場合と乳房全摘した場合の生存率はほぼ変わらないというものでした。医師たちは同様の治療方法がDCISにも適応するであろうと推測したのです。そしてその推測は前出のNSABPとEuropean Organization for Research and Treatment of Cancerの大規模な研究によって裏付けられました。


治療の選択
今日、マンマグラフィーとバイオプシーの結果によって乳房全摘か部分切除か決められます。DCISは、緊急を要しないので以下のことを2~3週間かけて考えて選択をすることが出来ます。

  • 部分切除はDCISが1箇所にだけあり腫瘍のまわりに数ミリのマージン(正常な細胞の部分)をつけて取り除くことが可能か。
  • 放射線治療は部分切除をした全ての女性に勧められます。そうすることで術後の再発のリスクを30~15%下げることができます。アメリカでの標準的な放射線治療は、病院か放射線専門センターで5日間連続を5~8週間 乳房全体に放射線を照射します。最新の治療方法も出てきています。(後出のDCISのこれからでの治療方向治療を参照)
  • タモキシフェン(ノルバデックス)を経口で服用することによってさらに再発のリスクを下げることができます。1999年のNSABPの無作為で選ばれたグループの研究では、DCISの患者で手術と放射線治療のあとタモキシフェンを服用したグループは 手術と放射線治療のあとプラシーボ(偽薬)を服用したグループと比べると再発の確率は半分となりました。
  • 乳房全摘の場合 再発無しの10年生存率は98%です。乳房全摘は、乳房に1箇所以上のDCISがある場合 または、局部と健康な細胞のマージンを採ると乳房の形がかなり崩れる場合に行われます。(注:通常アメリカでは乳房全摘の時は、乳房再建も保険適応する)乳房全摘は、DCISを再発した人や同じ部分に浸潤性がんが発症した人にも勧められます。放射線治療を受けないためや、再発の可能性を最低限に抑えるために乳房全摘を選択する女性もいます。
  • DCISの再発のリスクは低いのでリンパ節の生検はしません。手術後の化学治療も、必要ありません。



DCISのこれからの治療方向
DCISの治療の改良と何よりも浸潤性がんになるのを予防するために研究は行われています。研究者は、DCISの病理を研究し ある特定の腫瘍の特質がDCISの再発の確立を下げるための最も有効な治療方法に関係あることに気が付きました。例えば、エストロゲン受容体陽性の乳がんは、がん増殖にエストロゲンを必要とします。タモキシフェンはエストロゲン受容体に結合し、エストロゲンが受容体に結合することを阻害します。タモキシフェンは、エストロゲン受容体陰性のDCISに比べ陽性の場合に効果があります。

アロマターゼ阻害薬(フェマーラ、アリデミックスなど)は、体内の組織と乳房の組織内でエストロゲンが作られるのを阻害するための薬品です。この薬品を用いてエストロゲン受容体陽性のDCISのある閉経後の女性のを対象とした治験が行われています。
エストロゲン受容体陰性で、HER2/neuの遺伝子をもつDCISの女性には、トラスツズマブ(ハーセプチン)とラパティニブ(タイカーブ)という薬品を使って研究中です。これらの薬品は、遺伝子による腫瘍細胞の増殖を阻害する働きがあります。
別の有効な治療方法として研究されているのは、DCISと診断を受けてから手術前の短期間に行う化学治療です。それをすることで手術で切除した部分を化学治療前後で比較し 分子レベルと病理学的に化学治療に対しての反応を評価することができます。適切な反応(例えば、異常な細胞の増殖を止めるかゆっくりにするなど)を促す薬剤には、将来性のある治療と再発予防のために さらなる評価と判断がなされます。

新たに放射線治療が治験においてよい結果をだしています。この治療方法は乳房の局部に5日間弱い放射線を照射するというものです。別のアプローチとしては、手術中に放射線を照射するというもので、DCISを切除した後 傷口を縫合する前に一度だけ局部に照射します。


DCISの朗報
DCISは、ときとしてステージ0(ゼロ)の乳がんまたは、乳がんの一番早期といわれます。この診断を受けた女性からの質問は、“私は生きていくことができるの?”ではなく、“どこまで治療をすればいいの?”です。今日の一番大きなリスクは、過剰な治療です。研究が進んだことにより、広範囲の手術や放射線治療なしで抑制できる腫瘍を識別することができるようになってきていることもあり、過剰治療の現状は変わりつつあります。DCISは本当に完治するがんとされています。

もし、DCISだと診断されたなら治験に参加することを考えてもいいかもしれません。そうすることで、最新で最善の治療を受けることができ、新しい治療や治療の取り組みを受けることができます。そして、この病気の治療方法を見つけるための研究に貢献することができるのです。アメリカのNational Cancer Instituteの治験に登録先は、
www.cancer.gov/clinicaltrials
(http://www.cancer.gov/clinicaltrials)です。


(別の前浸潤性の病気)非浸潤性小葉がん
  Lobular carcinoma in situ (LCIS)
非浸潤性小葉がんは、病名にかかわらず 厳密に言えば乳がんではありません。そして、乳がんに発展するとは限りません。しかし、乳がんのリスク要因ではあります。いくつかの小規模(被験者200名以下)の研究で、LCISは浸潤性がんに発展しないが、LCISのある女性が浸潤性乳管がんになる率は一般女性の4倍、浸潤性小葉がんになる率は18倍と示唆しています。
LCISは、乳房内の母乳を作る小葉での異常な細胞の増殖です。LCISは1980年代から50歳以上の女性を中心に増加しました。2000年以降は、50~69歳に限り増加がみられました。それは、定期的にマンモグラフィーを受けることによって見つけられたと思われます。

LCIS(非浸潤性小葉がん)には、触診でわかるしこりや、レントゲンに写る微小石灰化はありません。良性のがんや浸潤性がんの生検のときに偶然に見つかっています。良性がんの生検の0.5%~3.8%の割でLCISがあると推測されますが、どのくらいというはっきりした数値は、まだわかりません。

LCIS(非浸潤性小葉がん)は、乳房の小葉内に複数箇所で発生するので部分切除は適応治療方法ではありません。その代わり次の方法を用います。

  • 経過観察。LCISはがんのリスク要因なので定期的触診と年に一度のマンマグラフィーは必須です。これは、さらなるLCISを見つけるのを目的としてではなく、がん化してる場合の早期発見を目的としています。MRIは、乳がんのハイリスクの女性に勧められていますが、LCISのある女性にも有効な検査方法といわれ始めています。
  • 予防方法。臨床では、タモキシフェンを勧めます。治験では、タモキシフェンの服用でLCISのある女性の乳がん罹患を56%下げるという結果がでているからです。タモキシフェンに類似した薬品は、ラロキシフェン(エビスタ)があります。予防的に両方の乳房の全摘は通常勧められませんが、LCISがあり、且つ BRCAという遺伝子に変異が認められる(浸潤性がんのリスクを持つ)人は、予防的に両乳房の全摘を考えたほうが良いこともあります。